篠田厚志さん
NPO法人ファザーリング・ジャパン関西 代表理事
プロフィール
1980年生まれ、大阪府出身。高校卒業後、大阪府庁で12 年間人事と財政業務をおこなう。仕事へのモチベーションが高かった 29 歳の時に肺に腫瘍が見つかり、人生観が大きく変わる(結果は良性腫瘍による経過観察)。大阪府庁を退職し、公的資金や行政運営の知識を活かし、父親の子育て支援をおこなうファザーリング・ジャパン関西の立ち上げに参画し、2015年から理事長に就任。
最初は公務員だったのですよね?
篠田 高卒で大阪府の公務員として働き始めました。20歳の時に妻と出会って、ライフデザインを考えるようになりました。実父は昼夜逆転の運送業だったんです。整った生活をしたいという思いがあり、高校の恩師に公務員を勧められ就職しました。25歳で結婚、27歳で第1子の男の子が生まれ、29歳で第2子の女の子が生まれました。
順風満帆な感じですよね?
篠田 公務員時代の仕事は、人事全般と財務、地方財政などをしていました。29歳のときに健康診断があり、食道に腫瘍のかげがあると言われ精密検査を受けました(現在は完治)。そんなことがきっかけとなり、今まで描いでいた人生設計を考えたときに、「これでいいのか?」って思ったんですよ。公務員の仕事に飽きてしまったというか。心を動かされる仕事にチャレンジしたいという気持ちがわいてきました。
NPOや環境支援、子育て支援など社会課題にも興味を持つようになり、それでFJを知ったんです。自分の気持ちに一番近く、しかも法人活動として成り立っているということに共感し、会員になりました。
公務員として市町村の財政支援をしていて、予算を見ていましたが、何百億、何千億という予算を動かして、子育て支援にも予算をつけています。でも自治体として何ができているのかと言うのが大事ですよね。
自分はどの団体を支援したいかいろいろ調べたんですが、FJを見つけて、「父親支援やってるの?」「まじで?」って、そんな団体があるのかと思い、驚きました。
それでFJにジョインしたわけですね。
篠田 最初は一会員だったんです。枚方の講演会に安藤さんが来ていて。FJK(ファザーリングジャパン関西)を紹介されました。当時の事務局長・井岡さんと知り合い、関西独自のイベントなども行うようになりました。
2012年にFJKに規模が大きくなり、理事に就任しました。2013年にFJKが法人化したタイミングで公務員をやめました。新しい環境にチャレンジしたいと考えて3カ月間のんびりと暮らしていたんです。そんな中、2013年の夏、井岡さんが急逝されました。
「FJKの体制をどうするか?」と議論し、仕事をやめていたので「篠田、どう?」っていう話になり、2013年9月に井岡さんに変わって事務局長を引き継ぐことになりました。
すごいタイミングでしたね。
篠田 行政の人事スケジュールとして、年度途中でやめるのはNG。3月いっぱいでやめて、そろそろ転職活動をしようと思っていた矢先でした。自分は公務員しか知らないので、現場に行きたいという思いが強くありましたね。自分が転職とか困ったときに、親に相談できなかったんです。働くことに対して、わが子に話ができるようになりたいと思いました。いろいろな働き方を経験して、知識を身につけたいという思いも大きかったです。
パートナーはどうでしたか?
篠田 妻は保育士としてフルタイムで働いているのですが。僕の病気のこともあり、また「いつから公務員じゃない仕事がしたい」という話もしながら4年がたっていました。公務員の生活は忙しかったので、転職しても逆になんとかなるだという気持ちもありましたね。
では篠田さんの一番の転機は病気ですか?
篠田 はい、病気が発覚したときに、考え方が変わりましたね。FJに出会う前から子どもとの関係は大事に考えていました。ミルクをあげたり、夜泣きの対応をしたり、沐浴は二人でするのが当たり前。保育園の送りもしていました。食事作りや洗濯は職場が近かったこともあって、新婚中からやっていました。
そんな風に自分としては当たり前にやっていることなのに、支援してそんな意識のパパを増やそうとしなくてはならないということが青天の霹靂でしたね。
今はFJKの代表ですね。
篠田 はい、約半年、事務局長として働き、2014年4月からFJKの代表になりました。外向けの発信に力を入れて、ソーシャルインパクト(社会的影響力)を明確にしていこうというのが今の課題です。
FJとFJKの違いは何ですか?
篠田 関西でFJと同じことをしてもうまくいかないと思っています。関西の独自性を出していくのが大事ですね。そこで「子育てを面白がる」というコンセプトを打ち立てました。FJKは遊びを活動の中心に据えています。父と子が一緒に体験することを、強く意識して活動しています。
シアトル父子ツアーも、そんな流れで実現したのですね。
篠田 はい、シアトルには昔、自分が行ったことがあり、2017年に父子ツアーを実現しました。希望者を募り、選抜形式で、FJKで旅費を持つ形で行いました。目的は、子どもたちが新しいことを知る、客観的に見る、それを親も知ることが大事だと思っています。
NPOで働くというのも、まだ珍しいスタイルですね。
篠田 日本ではNPOで働いている人、生計をちゃんと立てられている人が少ないですね。社会的にいいことをしながら、インパクトを与えながら、そこでライスワーク(仕事に)できる組織を増やせたらと思っています。そのためにも自分の生活を維持していくことが大事です。NPOで働くロールモデルの一人として、ほかの組織も支援していかれたらと思っています。
取材・文:高祖常子(FJ理事、育児情報誌ninaruエグゼクティブアドバイザー)